• 夏休へうしきのをとこ出てきさう

  眩む凡

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「へうしきのをとこ」とは、標識に描かれている男です。人出の多くなる「夏休」ともなれば、横断歩道を行き交う人々の中に、標識の白抜きの「をとこ」も混じっているかもしれない。そんな「夏休」の幻想。
• 先生の個展に裸婦や夏休

  清水縞午

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　担任の先生か、美術部の顧問か。「先生の個展」の会場に飾られている「裸婦」の前で、ハッと息をのんでいるのです。思春期の恥じらいと興味が入り混じるような「夏休」の体験の一句です。
• ずたずたの水の太陽なつやすみ

  RUSTY＝HISOKA

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「なつやすみ」と「水」又は「太陽」の取り合わせは定番ながら、「ずたずた」の一語のみで、水に映る太陽を蹴散らしていく子供たちの様子やエネルギッシュな夏の眩しさを立ち上げてしまう。この技に、感嘆します。
• 門川を日がな覗いて夏休

  風早杏

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「門川」とは、門口を流れる水。野菜や食器を洗う等、生活に溶け込んでいる小川です。流れを見ているだけでも退屈しない、「夏休」のゆったりとした時間。「覗いて」に、良き無為の気分も表現されています。
• マキロンは五本目なつやすみ二十日目

  巴里乃嬬

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　様々な表現効果をもたらす数詞。傷を消毒するマキロンはすでに「五本目」。ころんだ、ひっかいた、切った。「なつやすみ」の体験の数だけ増える傷。まだ「二十日目」という数詞もまた、リアルな可笑しみです。
• 夏休は坩堝しぶきをシャチが打つ

  中島　真珠

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「夏休」を「坩堝」と抽象的に捉え、その真ん中にシャチが飛び出してきます。シャチがしぶきを上げるのではなく、シャチが「しぶきを打つ」かのようだという表現の工夫が臨場感を演出しています。
• 山羊小屋の押し切りザクリ夏休

  咲 まこ

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　山羊の餌となる藁や乾草を切る「押し切り」のカッター。「ザクリ」というオノマトペが、刃の重量や感触を伝えます。季語「夏休」が、おっかなびっくり使っている子供の存在をありありと表現してくれます。
• 単位足りない雲量八の夏休み

  百瀬一兎

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　前期の成績を手にし、単位が足りない事実に直面。焦りを抱いているのです。嗚呼と見上げる今日の空は「雲量八」。まるで我が溜息に曇っているかのようです。心にも暗雲の漂い始める大学生の「夏休み」です。
• 硬貨吐かされ豚のひだるき夏休

  さとけん

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　なぜか豚の貯金箱との取り合わせも多かったのですが、「硬貨吐かされ」の擬人化が成功しました。「ひだるき」は、空になった豚の貯金箱であり、大して溜まってなかった落胆が混じっているのかもしれません。
• 電柱のやうなたいくつ夏休

  大岩摩利

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「夏休」＝「たいくつ」は、類想の定番ですが、そこに「電柱のやうな」という比喩が入るだけで、ほのぼのとしたユーモアが生まれます。何をするでもなくそこにいるだけの「夏休」もまた、季語の本意の一つです。

次回の兼題も
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