牡丹
摂田屋酵道
鴇色キイロ
マレット
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「遺書無くて牡丹の影はやわらかで マレット」
端的に状況を伝えてくれる「遺書無くて」という導入。そこから展開される、おそらくは遺された家をめぐる諸々の問題と、空間的・心理的虚ろさがずっしりと胃に落ちてきます。遺された物のなかには牡丹を咲かせる立派な庭もあるのでしょう。大輪の牡丹は幾重もの花弁をやわらかに重ねて、我関せずと地に影を落としています。「~て」「~で」と切れを作らない形が呆然と続く一連の時間を見せてくれます。
「ねぇ牡丹トモダチごっこは窮屈ね 摂田屋酵道」
「返事を返してくれるはずのないなにかに語りかける」という、ある種古典的な発想ではあるのですが、語りかける内容と「牡丹」が独特な世界を作り出しています。牡丹は百花の王とも呼ばれる華やかさが最大の特徴。「トモダチ」表記の皮肉といい、まるで社交界を生き抜く中世貴族のジレンマを演じているかのようです。高貴には高貴の辛さがあるのよ、といわんばかりに牡丹は窮屈に花弁をひしめかせて。
「顔ほどの牡丹の茎を褒めたまえ 鴇色キイロ」
そうくるか! と笑ってしまった一句であります。人の顔ほどもある牡丹ともなれば、その迫力たるや! 花弁の周囲には、花を引き立てるように緑の葉が美々しく広がっています。これだけ厚みと重みのある牡丹を支えるのだから、茎も隆々と太い……かと思いきや、アンバランスなくらいにほっそりしているではありませんか。この支える茎をこそ褒めてやってよ! なんて誰にともなく命令したくもなる、粋な俳人心であります。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!
八田昌代
ともき9才
矢堀サトシ
不知飛鳥
マーゴとレニー
喜祝音
古川川
高山玲徹楚々
草深みずほ
江宮神
みくにく
中島 紺
弥生ポリ
足立とんび
奈良部風遊
渋井素不意
古拙機
阿蘇の乙姫
雨逸福
竹林長彦
三宅雅子
ひな子桃青
白川ゆう
かい みきまる
鷺沼くぬぎ
山下健太朗
浦野米花瑠
希凛咲女
クラウド坂の上
鬼塚樹童
円錐角膜
選者コメント
家藤正人選
初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。
「遺書無くて牡丹の影はやわらかで マレット」
端的に状況を伝えてくれる「遺書無くて」という導入。そこから展開される、おそらくは遺された家をめぐる諸々の問題と、空間的・心理的虚ろさがずっしりと胃に落ちてきます。遺された物のなかには牡丹を咲かせる立派な庭もあるのでしょう。大輪の牡丹は幾重もの花弁をやわらかに重ねて、我関せずと地に影を落としています。「~て」「~で」と切れを作らない形が呆然と続く一連の時間を見せてくれます。
「ねぇ牡丹トモダチごっこは窮屈ね 摂田屋酵道」
「返事を返してくれるはずのないなにかに語りかける」という、ある種古典的な発想ではあるのですが、語りかける内容と「牡丹」が独特な世界を作り出しています。牡丹は百花の王とも呼ばれる華やかさが最大の特徴。「トモダチ」表記の皮肉といい、まるで社交界を生き抜く中世貴族のジレンマを演じているかのようです。高貴には高貴の辛さがあるのよ、といわんばかりに牡丹は窮屈に花弁をひしめかせて。
「顔ほどの牡丹の茎を褒めたまえ 鴇色キイロ」
そうくるか! と笑ってしまった一句であります。人の顔ほどもある牡丹ともなれば、その迫力たるや! 花弁の周囲には、花を引き立てるように緑の葉が美々しく広がっています。これだけ厚みと重みのある牡丹を支えるのだから、茎も隆々と太い……かと思いきや、アンバランスなくらいにほっそりしているではありませんか。この支える茎をこそ褒めてやってよ! なんて誰にともなく命令したくもなる、粋な俳人心であります。
いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!