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初級者結果発表

2025年4月20日週の兼題

牡丹

【曜日ごとに結果を公開中】

【優秀句】

  • 遺書無くて牡丹の影はやわらかで

    マレット

  • 顔ほどの牡丹の茎を褒めたまえ

    鴇色キイロ

  • ねぇ牡丹トモダチごっこは窮屈ね

    摂田屋酵道

選者コメント

家藤正人

初級コースの金曜日掲載は中級への昇級の目安。中でも特に目を惹く句についてピックアップコメントをお届けします。



「遺書無くて牡丹の影はやわらかで   マレット」

端的に状況を伝えてくれる「遺書無くて」という導入。そこから展開される、おそらくは遺された家をめぐる諸々の問題と、空間的・心理的虚ろさがずっしりと胃に落ちてきます。遺された物のなかには牡丹を咲かせる立派な庭もあるのでしょう。大輪の牡丹は幾重もの花弁をやわらかに重ねて、我関せずと地に影を落としています。「~て」「~で」と切れを作らない形が呆然と続く一連の時間を見せてくれます。


「ねぇ牡丹トモダチごっこは窮屈ね   摂田屋酵道」

「返事を返してくれるはずのないなにかに語りかける」という、ある種古典的な発想ではあるのですが、語りかける内容と「牡丹」が独特な世界を作り出しています。牡丹は百花の王とも呼ばれる華やかさが最大の特徴。「トモダチ」表記の皮肉といい、まるで社交界を生き抜く中世貴族のジレンマを演じているかのようです。高貴には高貴の辛さがあるのよ、といわんばかりに牡丹は窮屈に花弁をひしめかせて。


「顔ほどの牡丹の茎を褒めたまえ   鴇色キイロ」

そうくるか! と笑ってしまった一句であります。人の顔ほどもある牡丹ともなれば、その迫力たるや! 花弁の周囲には、花を引き立てるように緑の葉が美々しく広がっています。これだけ厚みと重みのある牡丹を支えるのだから、茎も隆々と太い……かと思いきや、アンバランスなくらいにほっそりしているではありませんか。この支える茎をこそ褒めてやってよ! なんて誰にともなく命令したくもなる、粋な俳人心であります。



いずれもお見事でした。自信がついたら中級にもぜひ挑戦してみましょう!

  • 緋牡丹の痛いにほひや過去の人

    江宮神

  • 緋牡丹はらり遠野に怖い物語

    中島 紺

  • 少しこわい牡丹色の牡丹です

    希凛咲女

  • 住職へ道譲りたる牡丹かな

    クラウド坂の上

  • 徘徊の母と牡丹を数えけり

    弥生ポリ

  • 夜の庭の深部体温めく牡丹

    八田昌代

  • 入り口の牡丹も怖い社長室

    矢堀サトシ

  • ぼうたんの風入れて読む古今集

    竹林長彦

  • 四十九日果て夥しき牡丹

    三宅雅子

  • 仲違いしたままで見る牡丹かな

    マーゴとレニー

  • 引力の真っ只中に牡丹かな

    ひな子桃青

  • 心臓は月色牡丹咲く庭に

    高山玲徹楚々

  • そよ風に少し遅れて立つ牡丹

    草深みずほ

  • 緋牡丹やオペ八日後の新喜劇

    円錐角膜

  • 牡丹散る観音仏は売られたり

    山下健太朗

  • 音の無き雨牡丹のせいでせうか

    白川ゆう

  • 鬼来ぬか牡丹の後ろからのぞく

    奈良部風遊

  • 善き皺の亭主の咲かす牡丹かな

    渋井素不意

  • 友だちになってくれなそ白牡丹

    古拙機

  • 月の夜の阿修羅の吐息黒牡丹

    阿蘇の乙姫

  • 隣より大きい牡丹咲きにけり

    鬼塚樹童

  • 牡丹咲く村の駐在子沢山

    雨逸福

  • 三叉路を牡丹の方へ折れて晴れ

    不知飛鳥

  • 耳鳴りの微熱は衰えず牡丹

    喜祝音

  • 夕暮れの心の始末白牡丹

    古川川

  • 散り際の牡丹にみづの錆匂ふ

    かい みきまる

  • 牡丹の千の吐息に迷ひけり

    みくにく

  • 白牡丹蕾の縁の薄緑

    鷺沼くぬぎ

  • 牡丹とは菩薩の脳の断面図

    足立とんび

  • ぼうたんや大人になるのは難しい

    浦野米花瑠

  • 白ぼたん遊んでくれるお父さん

    ともき9才

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