• 風穴の湯気ほしゅほしゅと山眠る

  いさな歌鈴

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「風穴(ふうけつ)」というと、夏季に山腹の横穴から噴き出す冷たい風を思いますが、中七の「湯気」や下五の季語「山眠る」から、温風穴だと分かります。冬山が眠りながらも活動する(マグマ等)という句は沢山ありましたが、「風穴の湯気」という素材に独自性があり、中七のオノマトペ「ほしゅほしゅ」にリアリティがあります。
• 風の日は花豆を煮る山眠る

  ハチ太郎

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　季語「山眠る」に豆を煮る光景を取合わせる句はそれなりにありますが、「花豆」と具体的に書いた点が良いですね。「花豆」とはベニバナインゲン。淡紫色に不規則な黒紫斑がある大きな豆です。風の強い日は家の中でコトコトと花豆を煮る。「花」の一字の印象が、山眠る冬の日常にささやかシアワセ感を添えるかのようです。
• 山眠り鉄の匂ひに変はる馬

  さとけん

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　遠景に深く眠っているような冬山があり、近景には「馬」が立っています。その隆々たる筋肉はまるで鋼のようです。冬の冷気によって、馬の生き物としての臭いが「鉄の匂ひ」に感じられる。その感覚に詩があります。静けさの中に漲る力を思わせるのが「～に変わる」という描写。鉄色の冬山も次第に眠りを深くしていきます。

次回の兼題も
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