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中級者以上結果発表

2021年12月20日週の兼題

山眠る

【曜日ごとに結果を公開中】

【類想】

選者コメント

夏井いつき

 季語「山眠る」は冬の山を擬人化している季語です。山が眠っているから、さらに色んなものも「眠る」という発想の句は、永遠の定番です。例えば、

 ・山も私も獣も鳥も川も眠る。

 ・〇〇は眠らない、眠れない

 ・夢をみる 寝息や鼾(山の獣の夫の……)

 ・〇〇を枕に眠る

やたらめったら何もかも眠っているだけでは、独自性が足りないということになります。

 ・たまに薄目を開ける

「眠る→薄目を開ける→起きる→笑う」と、春の季語「山笑う」につなげていく発想は、案外あるのです。


 山が色んなものを「抱く」「懐」「眠らせる」という句も沢山ありました。

 ・〇〇を抱いて 

 ・〇〇を懐に 

 ・〇〇を眠らせる

獣や自分や屍や骸や命やダムや村や町……いろいろなものを懐に抱いて、眠らせている。

 これらの発想がダメというのではありませんが、残りの部分の独自性や真実味を工夫する必要があるでしょう。


 季語「山眠る」には静けさのイメージもあるので、聴覚情報を加えるという考え方もあります。が、そこにも類想の落とし穴があるのです。


  旅先のラジオからジャズ山眠る  村瀬っち

  ラジオからジャズのリズムや山眠る   犬散歩人


これらの句が独自性を手に入れる方法としては、

 ・「ラジオからジャズ」+残りの音数で季語「山眠る」を描写する。

 ・どんなジャズなのか、具体的に書く。

このあたりから取りかかるのも一つの工夫です。


 類想類句からの脱出は、「一単語の工夫」から。小さな独自性、ささやかな真実味は、単語一つの工夫から生まれます。


◆類句例

ど演歌のこぶしころがし山眠る   せいしゅう

引き売りの演歌高らか山眠る    いつか

ど演歌の移動スーパー山眠る    でんでん琴女


ふところにダム湖を抱き山眠る  さいたま水夢

湖の蒼を抱いて山眠る      髙橋弓女


こだまする銃声二発山眠る   なおじい

猟銃音一発こだまし山眠る   カオス


山眠る海底プレートにゴジラ   佐藤啓蟄

海底のゴジラ冠する山眠る   鯛風


暁のドップラー効果山眠る   湊吾子

特急のドプラー効果山眠る   独星


兄逝きし煙上がるや山眠る   りんごのほっぺ

父恋し荼毘の煙や山眠る   哲庵

火葬場の祖母の煙や山眠る   江藤真治


※今回の兼題「山眠る」中級者以上投句欄へのご投句は、投句数3510句、投句人数1272人となりました。以下、類想句の一覧です。

類想一覧(選外)

  • 山眠るその中腹に登り窯

    宮武濱女

  • 足跡の鳥も獣も山眠る

    水間澱凡

  • 山眠る共に眠る子起きる子も

    寺木 風宣

  • 埋蔵金を懐にして山眠る

    きゅうもん@木ノ芽

  • 山眠る初期設定のスマホかな

    明神おぼろ月

  • 俗世の喧騒他所に山眠る

    大阪駿馬

  • 海底の火山噴火や山眠る

    国東町子

  • 右足の靴擦れの痕山眠る

    鈴木久美子

  • 時を超ゆ明日香の風や山眠る

    野瀬藻石子

  • 山眠る夕日も眠る肩よせて

    風花美絵

  • 山眠る地層の記憶置き去りに

    青田奈央

  • ポツンと一軒家包み山眠る

    みおつくし

  • 九十九折の先は神祠や山眠る

    淡海かこ

  • 天鵞絨の帳降りたり山眠

    美音

  • 海底の噴火地上の山眠る

    欅ノ栞

  • あれっ寝たの孫の寝息や山眠る

    原 鳥小路

  • 山眠るどこまでも静か山眠る

    山田檸檬

  • 山眠る猫眠る日は我も寝る

    西谷 寿春

  • 生みたての卵ほんわり山眠る

    ほしの有紀

  • 一つ家を懐深く山眠る

    渡邉竹庵

  • 暗い雲はるか向かいに眠る山

    蓮風

  • 星々を表舞台に山眠る

    クロまま

  • 村抱く八重垣となり山眠る

    堀隼人

  • その一角を眠らせて山眠る

    池 閑茶

  • 幾重にも重なり合いて山眠る

    森爺

  • 業火めく窯元の火や山眠る

    リカ

  • おくるみの睫毛の長し山眠る

    果音

  • 千年もひとときのごと山眠る

    遊羽女

  • 稜線もくっきり見えて山眠る

    早坂 一周

  • 母眠る墓淡々と山眠る

    直心

  • 山眠る犬の遠吠え響きをり

    一富士リリー

  • せせらぎも小鳥も眠る山眠る

    つるつるつるりん

  • へび、かえる抱きて山の眠りをり

    無雅夢蟲

  • 廃線の枕木の向こう山眠る

    黄鶺鴒

  • 山眠るお一人様の気楽さよ

    氷室茉胡

  • 懐に沢音包み山眠る

    岡本 戎

  • 渋滞の続くトンネル山眠る

    もふ美

  • 山眠る電光掲示の文字走る

    也和

  • 山眠るマグマを奈落に隠しつつ

    羅蒐

  • 今もなほ動かぬ甲斐の山眠る

    田村利平

  • 山眠るグラデーションの遠秩父

    小田ビオラ

  • 山眠る次の目覚めを疑わず

    中島走吟

  • 蹲踞の音も静かや山眠る

    星影りこ

  • 一周忌母の面影山眠る

    みつみん

  • 目覚めねばこれが本番山眠る

    渕野陽鳥

  • 山眠るパンドラの匣」抱きつつ

    魚返みりん

  • 故郷は海の底なる山眠る

    はれまふよう

  • 吾の母校山眠る湖の底のそこ

    柊 しゅう子

  • 山眠る村にかすかな子守唄

    ゆみづき

  • 山眠る足跡だけをのこしゆき

    田中ようちゃん

  • ダムの底嘗て村あり山眠る

    いつか

  • 山眠る分厚き願書投函す

    梨西瓜

  • 海底に眠る山ある噴火かな

    藤咲大地

  • やうやくに三合目まで山眠る

    たま走哉

  • 電線路抱へ今宵も山眠る

    イエティ伊藤

  • 懐にマグマ抱へて山眠る

    余田酒梨

  • 吐く息の霧に包まれ山眠る

    蓮田やどかり

  • 真夜中の高速道路山眠る

    青木豊実

  • 子を思ふ山眠る日の涙雨

    ヴィッカリー趣乃

  • ふところにねむる愛犬山眠る

    高内久子

  • 開削の爪跡深く山眠る

    知恵さん

  • 地蔵さまの赤い前掛け山眠る

    からすちゃん

  • 大いなるものを抱きて山眠る

    蓼科川奈

  • 鉄塔を空へ突き立て山眠る

    ひだ岩魚

  • 国道を車列延々山眠る

    岡塚 敬芳

  • 鹿罠も墓も抱きて山眠る

    北山 烏兎

  • 鉄塔に腹貸したまま山眠る

    鶴 木綿

  • 山眠る二ホンカワウソ、オオカミは

    かつたび

  • 街騒は遠きにありて山眠る

    虚実子

  • 山眠るいのち育む木も草も

    阿奇羅

  • まつすぐにあがる煙や山眠る

    赤松諦現

  • 高層のビル群はさみ山眠る

    島陽広

  • 父歩きしふるさとの道山眠る

    三崎扁舟

  • 山眠る嫁して四十余年なる

    柚和

  • 喧騒を眼下に預けて山眠る

    和子

  • 日が昇り雲目覚めども山眠る

    宏峰

  • 結界は女人禁制山眠る

    吾亦紅

  • 石炭を焼べる機関車山眠る

    しんしん

  • 山眠るペラペラめくる単語帳

    オルフ

  • 懐の海鎮まりて山眠る

    晴 aloha

  • 粛々と過去問解くや山眠る

    河村静葩

  • 温泉の湯けむり浴びて山眠る

    ゆぃ

  • トンネルの中は産道山眠る

    一日一笑

  • 山眠るおろち起こさぬようにして

    写俳亭みの

  • 山間の蒼き湖山眠る

    川島欣也

  • 星に呼ぶ亡き犬の名よ山眠る

    みのる

  • 山眠る光眩しき吾子の顔

    星 きく丸

  • 山眠る地滑りの傷癒えぬまま

    若井柳児

  • 助手席の妻のいびきに山眠る

    ひーたん@いつき組広ブロ俳句部

  • ソロキャンプ珈琲一口に山眠る

    鶴屋桃福

  • 明日へと一歩進んで山眠る

    橋本彩雅

  • 鳥獣を里に遊ばせ山眠る

    今治八十八

  • しやうるいのこゑみなすひてやまねむる

    かゐみすず

  • 天空の星々夢に山眠る

    宮澤韋駄天

  • 登り窯熱き火柱山眠る

    中野風鈴

  • 旅人の独り訪れ山眠る

    石崎京子

  • 駅伝の号砲響き山眠る

    ゆかりん

  • 山眠る父の墓前へセブンスター

    一井蝸牛

  • 古代史はロマン異国の山眠る

    野口真砂輝

  • 山眠る青年団の火の用心

    春雪

  • 年老いた町を抱きて山眠る

    尾木 李然

  • 御巣鷹の碑を抱きつづけ山眠る

    美年

  • 山小屋の錠前しかと山眠る

    夏目タンチャン

  • 岩肌に存す仏や山眠る

    らくさい

  • 曙の雲を被りて山眠る

    緒方朋子

  • 時の鐘音色ふっくら山眠る

    那須のお漬物

  • 山眠る新幹線の通過待ち

    はまお

  • 棄てられた老婆と共に山眠る

    藍雅凛

  • 三番の校歌まばらむ山眠る

    ペトロア

  • チロロンと響く手水舎山眠る

    ミセウ愛

  • 大岩の海の化石や山眠る

    砂糖ふさこ

  • 一村を沈めてダム湖山眠る

    山吹なお

  • 山眠る幾星霜の胎動

    青矢 真紘

  • 夕暮れに染まりて静か山眠る

    数哩

  • 乗り鉄の山眠る窓カップ酒

    晴鍬旅人

  • 山眠る川の流れを辿る日々

    はっしー

  • 万物の色を隠して山眠る

    卯夏野心

  • トロトロとバイク一台山眠る

    千原 十吾

  • 噴石も骨も抱きて山眠る

    太之方もり子

  • さよならと口が動いて山眠る

    森 佳月

  • 星々の声聴きながら山眠る

    あみま

  • 山眠る恩師の逝去告ぐ葉書

    東原桜空

  • 山眠る坂登りゆく郵便夫

    木寺 仙游

  • 警策の肩を打つ音山眠る

    石垣 葉星

  • 野良猫の亡骸抱いて山眠る

    睦月くらげ

  • 龍叫ぶ如きSL山眠る

    山内 負乗

  • 崩落の跡を曝して山眠る

    一生のふさく

  • アートなるトンネル抱き山眠る

    うみのひつじ

  • 縄文の血はめんめんと山眠る

    老人日記

  • 竃の火を塗り込めたまま山眠る

    対馬清波

  • 憂悶の古根朽ち果て山眠る

    卯月紫乃

  • 山眠る故郷の空星ひとつ

    広瀬八重子

  • 明日への蕾を抱いて山眠る

    藤田希布

  • 山眠り鶏一つ卵産み

    中山白蘭

  • 酒樽のしづかな呼吸山眠る

    夢雨似夜

  • 迷い込む客人抱き山眠る

    鶴岡木の葉

  • 静脈のごと枝ひろげ山眠る

    西川あきや

  • 山眠る時空を醸すウヰスキー

    大庭慈温

  • 山眠る木の精霊にまもられて

    工藤遊子

  • 山眠る数多のこだま閉じ込めて

    さぶり

  • 捕らわれし獣の咆哮山眠る

    嘉門生造

  • 明けてゆく朝日を抱きて山眠る

    林 和寿

  • ユトリロの白き教会山眠る

    愛燦燦

  • SLの煙を裾に山眠る

    宮川武久

  • 山眠る休業中の観覧車

    香栄

  • 母として決して譲らず山眠る

    早川 杏ちゃん

  • 国後や近くて遠き山眠る

    伏見丹耶

  • 山眠る頂きに座す三角点

    暇禍

  • 東雲や車窓に眠る山の裾

    黒子

  • 親牛の揺るる乳房山眠る

    俳菜ひろこ

  • 山眠る空き家となりし生家かな

    そまり

  • 白髭を蓄へ眠る比良の山

    比良山

  • 山眠り猫は丸まり夢を見る

    上村茶娘

  • 縁側に夕日の残滓山眠る

    村瀬っち

  • 炭焼に懐を貸し山眠る

    大谷如水

  • 赤く燃ゆマグマは地下に山眠る

    枯木 花

  • 山眠る離婚届に判はまだ

    優純bow

  • 一望のダム湖の蒼さ山眠る

    東太

  • 猪の一家を抱いて山眠る

    野原めぐみ

  • アルプスを越えて眼下に山眠る

    秦 理露

  • 炭竈の煙途絶へてやま眠る

    綺楽よしじ

  • 勢いの萎えし日の矢や山眠る

    加和志真

  • 連峰の富士は真ん中山眠る

    安寿

  • 山眠る雑木覗く星の黙

    桔梗

  • 後戻りできぬ人生山眠る

    森一平

  • 幾千万星の黙に山眠る

    み藻砂

  • 山眠る寝息の中に鳥獣

    冬野とも子

  • 山眠るもののけ深き息づかひ

    さいたま水夢

  • 夕泥む窓の借景山眠る

    安曇野まりえ

  • ナカムラの名はアフガンに山眠る

    後藤三梅

  • 夜は更けて月明かり見て山眠る

    芥川光正

  • 現への稜なだらかに山眠る

    酔下弦

  • 白い綿すっぽり被り山眠る

    風花あつこっとん

  • 山眠る白紙の続く日記帳

    黄昏文鎮@いつき組広ブロ俳句部

  • 山眠る犬の寝息に耳すます

    なつめモコ

  • 噴火あり地滑もあり山眠る

    齋藤夜明鳥

  • 村落の沈みしダム湖山眠る

    三水

次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
お待ちしています!

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