• 劫といふ淋しき単位いわし雲

  常幸龍BCAD

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「劫(ごう)」とは「極めて長い宇宙論的な時間の単位」で「天人が四十里（160㎞四方）の大石を薄衣で百年に一度払い、大石が全て摩滅しても終わらないほどの長い時間」だと『雑阿含経』に記されているのだそうです。中七の詩語によって、眩暈のしそうな長い時間と季語が切り結ばれます。「いわし雲」もまた「淋しき単位」の一つとして、「劫」という時間を漂い続けているのでしょうか。
• 鰯雲オキシドールのごとにほふ

  ⑦パパ＠いつき組広ブロ俳句部

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「オキシドール」が「鰯雲」の比喩となる展開が新鮮です。運動会のかけっこ、急いで家を目指した帰り道、転んだ思い出は誰にでもあります。傷の上でじゅわじゅわ泡を噴くオキシドール。鰯雲を見る度に、あの日のオキシドールの匂いが思い出されるのでしょう。小さな痛みと懐かしさ。オキシドールの匂いがつんと鼻に蘇ります。
• 鰯雲センターライン塗る仕事

  寺尾当卯

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　塗り終わった頃には、最初に塗ったところが剥がれてくる。考えてみれば、「センターラインを塗る仕事」は終わりのない仕事です。作者自身が携わっていると読んでもいいし、この広い空の下、誰かがどこかのセンターラインを塗り続けているのだなあと、しみじみ鰯雲を見上げていると読んでもいいですね。良き気づきの一句。

次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
お待ちしています！