• 麦の秋鳥は二度目の恋をして

  森中ことり

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　一年に複数回抱卵する鳥類もいることを、今回知りました。一度目の恋を成就させ、抱卵し、巣立たせ、「麦の秋」が訪れる頃に「二度目の恋」をする鳥たち。金色の麦畑の中に巣を作る鳥もいるのかもしれません。（山本健吉氏の解説によると）秋とは「百穀百果、成熟の時、従ってまた収穫の時」を意味するのだそうです。麦が実り、鳥が恋をする、豊かな命に満ちた「麦の秋」です。
• 倉の鍵かへしに麦秋の橋へ

  葉村直

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「麦秋」を「ばくしゅう」と読めば時節、「むぎあき」と読めば映像のイメージが強くなります。この句の場合は「ばくしゅう」と読みました。昔の庄屋あるいは豪農の倉を思いました。収穫の準備作業でしょうか、古い倉の見学の類いかもしれません。「麦秋の橋へ」という動作の向こうに、「麦秋」という季節の光景が、豊かに広がっていくかのような読後感です。
• 麦の秋バターナイフの柄は魚

  はぐれ杤餅

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　時候の季語の多くは映像を持ちませんが、「麦の秋」は金色に熟れた麦畑の光景を内包しています。取り合わせた「バターナイフ」は、季語の持つ実りのイメージを匂わせ、さらに「魚」の絵柄のアップへ。麦→パン→バター→ナイフ→魚と、豊かな食卓を連想させる展開に工夫があり、季語「麦の秋」の持つ時間をゆったりと味わわせてくれる作品です。

次回の兼題も
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