俳句ポスト365 ロゴ

中級者以上結果発表

2023年4月20日週の兼題

麦の秋

【曜日ごとに結果を公開中】

秀作

  • 納屋黒板に二十日と父の字麦の秋

    河合郁

    選者コメント

    夏井いつき

     納屋に掛けられた黒板に「二十日」と父の筆跡の文字が残っているのです。実りと収穫の頃を示唆する季語「麦の秋」が、この数詞の意味や「父」の生死まで、様々なことをしみじみと想像させます。
  • 蛇口全開つよき水の香麦の秋

    北藤詩旦

    選者コメント

    夏井いつき

     「蛇口全開」にしたとたん水の匂いを強く感じるのが、「麦の秋」の頃だ、という気づき。「つよき水の香」を提示することによって、「麦の秋」の熱気を含んだ大気の乾きが、言外に感知されもする作品です。
  • 麦の秋星に自転の摩擦熱

    鈴木裕公仁

    選者コメント

    夏井いつき

     「麦の秋」が時候の季語であることを意識した発想でしょう。「星」が健気な「自転」を続ける時、そこには「摩擦熱」が生じるに違いない、と。「麦の秋」の持つ乾いた熱の正体を、詩的に定義した一句とも読めます。
  • 麦秋のトラツク魚をこぼし行く

    すのおくめいでん

    選者コメント

    夏井いつき

     港の市場で競り落とした魚でしょうか、釣った魚を加工場へ運ぶためのトラックかもしれません。凸凹の道を弾むように走るトラックが去った後には、こぼれた魚を狙う鴉も現れそうな「麦秋」の一点景です。
  • 麦秋を鳥とおんなじ心拍数

    七瀬ゆきこ

    選者コメント

    夏井いつき

     鳥の心拍数は種類によって異なるそうです。(小さなハチドリは千~五百回、大きなダチョウは三十~六十回とも。)小さな鳥の「心拍数」ぐらいに私の心拍数を上げるのが、「麦秋」という季節が持つ熱気なのだよ、と語る作者がここにいます。
  • 廃橋は風の入りぐち麦の秋

    げばげば

    選者コメント

    夏井いつき

     アーチ型の鉄道橋を思いました。「廃橋」になった鉄道橋のアーチは、まさに「風の入りぐち」であるよ、と。そこを抜けた風は、かつての機関車の雄姿を彷彿とさせつつ、「麦の秋」という季節を広々と吹き渡っていきます。
  • 麦秋や黒衣の母と燃える父

    石浜西夏

    選者コメント

    夏井いつき

     上五「麦秋や」と詠嘆した後の中七「黒衣の母」は、鮮烈な色彩の対比をイメージさせます。さらに、助詞「と」によって並列する「燃える父」という措辞。「麦秋」が熱風となって襲ってくるようなインパクトです。
  • ベーカリーの扉くわらんと麦の秋

    新多

    選者コメント

    夏井いつき

     中七「くわらん」とは、扉に取り付けられたドアベルの音でしょう。カウベルのような形と音を想像させるのが、このオノマトペの効果。「ベーカリー」の香ばしいパンの匂いも「麦の秋」に似合います。
  • 麦秋の沸き立つものに猿の血

    はせがわ水素

    選者コメント

    夏井いつき

     「麦秋」とは、麦の根方あたりに潜む熱気と湿度を体感させる季語でもあります。この時期になると「猿(ましら)の血」も沸き立つという詩的把握に驚かされました。猿の血の名残を持つ、我々人間の血もまた、密かに沸き立つ「麦秋」です。
  • 水門を二艘のカヌー麦の秋

    岸来夢

    選者コメント

    夏井いつき

     「水門」の付近をゆっくりと滑っていく「二艘のカヌー」。助詞「を」だけでその動きを映像化しつつ、下五の季語「麦の秋」によって背後の光景や空気や風を広げていく、実に爽快な作品です。

次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
お待ちしています!

投句はこちら