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中級者以上結果発表 秀作
2023年4月20日週の兼題
麦の秋
【曜日ごとに結果を公開中】
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蛇口全開つよき水の香麦の秋
北藤詩旦
選者コメント
夏井いつき
選
「蛇口全開」にしたとたん水の匂いを強く感じるのが、「麦の秋」の頃だ、という気づき。「つよき水の香」を提示することによって、「麦の秋」の熱気を含んだ大気の乾きが、言外に感知されもする作品です。
麦の秋星に自転の摩擦熱
鈴木裕公仁
選者コメント
夏井いつき
選
「麦の秋」が時候の季語であることを意識した発想でしょう。「星」が健気な「自転」を続ける時、そこには「摩擦熱」が生じるに違いない、と。「麦の秋」の持つ乾いた熱の正体を、詩的に定義した一句とも読めます。
麦秋のトラツク魚をこぼし行く
すのおくめいでん
選者コメント
夏井いつき
選
港の市場で競り落とした魚でしょうか、釣った魚を加工場へ運ぶためのトラックかもしれません。凸凹の道を弾むように走るトラックが去った後には、こぼれた魚を狙う鴉も現れそうな「麦秋」の一点景です。
納屋黒板に二十日と父の字麦の秋
河合郁
選者コメント
夏井いつき
選
納屋に掛けられた黒板に「二十日」と父の筆跡の文字が残っているのです。実りと収穫の頃を示唆する季語「麦の秋」が、この数詞の意味や「父」の生死まで、様々なことをしみじみと想像させます。
麦秋や黒衣の母と燃える父
石浜西夏
選者コメント
夏井いつき
選
上五「麦秋や」と詠嘆した後の中七「黒衣の母」は、鮮烈な色彩の対比をイメージさせます。さらに、助詞「と」によって並列する「燃える父」という措辞。「麦秋」が熱風となって襲ってくるようなインパクトです。
廃橋は風の入りぐち麦の秋
げばげば
選者コメント
夏井いつき
選
アーチ型の鉄道橋を思いました。「廃橋」になった鉄道橋のアーチは、まさに「風の入りぐち」であるよ、と。そこを抜けた風は、かつての機関車の雄姿を彷彿とさせつつ、「麦の秋」という季節を広々と吹き渡っていきます。
ベーカリーの扉くわらんと麦の秋
新多
選者コメント
夏井いつき
選
中七「くわらん」とは、扉に取り付けられたドアベルの音でしょう。カウベルのような形と音を想像させるのが、このオノマトペの効果。「ベーカリー」の香ばしいパンの匂いも「麦の秋」に似合います。
麦秋を鳥とおんなじ心拍数
七瀬ゆきこ
選者コメント
夏井いつき
選
鳥の心拍数は種類によって異なるそうです。(小さなハチドリは千~五百回、大きなダチョウは三十~六十回とも。)小さな鳥の「心拍数」ぐらいに私の心拍数を上げるのが、「麦秋」という季節が持つ熱気なのだよ、と語る作者がここにいます。
麦秋の沸き立つものに猿の血
はせがわ水素
選者コメント
夏井いつき
選
「麦秋」とは、麦の根方あたりに潜む熱気と湿度を体感させる季語でもあります。この時期になると「猿(ましら)の血」も沸き立つという詩的把握に驚かされました。猿の血の名残を持つ、我々人間の血もまた、密かに沸き立つ「麦秋」です。
水門を二艘のカヌー麦の秋
岸来夢
選者コメント
夏井いつき
選
「水門」の付近をゆっくりと滑っていく「二艘のカヌー」。助詞「を」だけでその動きを映像化しつつ、下五の季語「麦の秋」によって背後の光景や空気や風を広げていく、実に爽快な作品です。
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