• さっきまで蜘蛛の休みしお軸かな

  ぐりえぶらん

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　 下五「お軸」の一語で、全ての光景が立ち上がっていく作品です。自宅のお座敷か、茶室の床の間か。家の中に現れる害虫を食べてくれる蜘蛛は益虫ですから、見つけても殺しはしません。が、ちょっと気にはなります。「さっきまで」という時間経過を伝えつつ、すでにここにはいない蜘蛛をありありと描く、その企みが見事に成功しました。
• 蜘蛛に後を託して閉める秘宝館

  蒼空蒼子

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「蜘蛛」と「秘宝館」の取り合わせに独自性がありますが、同時に真実味もあります。閉館の時間となり、秘宝館を閉めようとすると蜘蛛が一匹目に入ったのでしょう。「後を託して」という措辞にほのかなユーモアがあり、明日の朝、この扉を開けたときに見つける蜘蛛の見事な仕事ぶり、天晴な蜘蛛の巣も想像できて、愉快な一句となりました。
• 献花涸る蜘蛛生きて巣を作りけり

  イサク

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　上五「献花涸る」から、交通事故死現場を想像。その花束が乾びているのですから、幾ばくかの日数を経ていることが分かります。そこに巣を作り始めた「蜘蛛」。人間の死、花々の死、生きることに懸命な蜘蛛の営み。生と死が交錯する場面に遭遇した俳人の心は、ハッと揺れるのです。「生きて～作りけり」の措辞がずしりと読み手の心にも伝わります。

次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
お待ちしています！