• 南風やすぴゆと海豚の生返事

  さるぼぼ17

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　いかにも「海豚」らしい真実味のある「すぴゆ」というオノマトペが秀逸。季語「南風」が獲得しつつある現代的な明るさに軸足を置いた取り合わせだといえましょう。船乗りや漁師に「はえ」「まじ」と呼ばれてきた湿気を含んだ「南風」は、時に穏やかに時に強烈に吹くという複雑な顔をもった季語。そのニュアンスを「生返事」という擬人化に託した意図も隠し味になりました。
• 流木や南風に腐る洞の砂

  麦のパパ

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「南風」と「流木」を取り合わせた句は、それなりにありましたが、空気の動きにすぎない風を映像としてリアルに表現しました。何よりも褒めたいのは「南風に腐る」という描写。本来この季語の持つ湿気や生臭さや温度を、南風によって腐ると表現した点が巧みです。読み終わった瞬間、読者である私たちの足裏にじっとりとした「砂」の感触まで伝わってきます。
• 南風や骨の匂ひのする真珠

  立田鯊夢・いつき組広ブロ俳句部

  選者コメント

  

  夏井いつき選

  　「真珠」に対して、「骨の匂ひ」を感じとったことそのものが詩です。実際に、真珠を構成しているのは炭酸カルシウムで、生き物の殻や骨格と同じ成分なのだそうです。俳人の観察から生まれる感知が、科学的事実と一致するのも痛快な出来事。上五「南風や」は、ゆっくりと真珠を育てる海を見晴るかすような効果をもった詠嘆です。

次回の兼題も
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