類想一覧(選外)
小道具をこっそりさわる雛祭
打楽器
娘去り雛は眠りの森にいる
笹間明明
ひな祭りよそはよそうちはうちなり
福田かな子
母に似る三人姉妹雛の家
有田みかん
おとうとの見えぬ敵も雛祭り
暖井むゆき
雛祭なんでうちには段ないの?
宇田建
巴里に在る娘をおもひ雛飾る
金太郎
嫁ぐ子の雛人形を飾りをへ
野の花 誉茂子
雛に部屋譲りて母と共寝せり
峰 乱里
お転婆の畏まりをり雛祭
干しのいも子
空耳か夜更けに雛の笛太鼓
関とし江
目鼻なき雛の憐れや夜半の燭
桔梗
お座りがまだできなくて雛祭
大阪駿馬
おすましの揃いの着物雛祭
佐藤甘平
雛飾る男児ばかりの吾子宅も
宗平圭司
四世代今は二人の雛祭
一日一笑
色褪せし赤い頬っぺと雛飾り
千風もふ
雛祭り遺影の父の若き笑み
卯月紫乃
すましてもほっぺ桃いろ雛まつり
原 水仙
紙雛やもがれしままの右小指
綺楽よしじ
幼子の膝かしこまる雛祭
蓼蟲
雛祭今もあなたの娘です
山本 マユミ
雛まつり酢を控えめにちらし寿司
ゆすらご
雛壇に座りたかった五歳ごろ
赤尾双葉
亡き母のレシピなつかし雛の宴
常盤あけび
雛壇の官女相手に手酌酒
なおじい
かしましや樟脳けぶる雛の宴
紫鋼
雛祭おとうとに分くルージュかな
三浦金物店
仕舞ふ日を思ひ煩ひ雛飾る
蜥蜴の尻尾
茶箱開く樟脳仄か古ひいな
黒澤墨青
弟の友達も来て雛祭
野ばら
爺待つで雛祭さは帰って来
つきのひと
丑三に灯るぼんぼり雛祭
佐藤裕人
叱られてまだ拗ねている雛の前
はぐれ杤餅
しっとりと女雛の肌は罪深し
のぼーる
色溢れ寂しさつのる雛祭
神田行雲
目隠しをほどきめざむる雛かな
かぬまっこ@木ノ芽
遠き日の妹の手にあり雛人形
福島 昇天
涙目の子の手のひらに雛の首
定吉
喜びも悲しみも見せるひなの顔
宮沢 韋駄天
孫を抱く母の笑顔や雛祭
木村となえーる
来世また女がよろし雛祭
英子
雛祭わが家に娘欲しかりし
dragon
雛祭人形の目の底にある闇
寿貢
雛祭り広き家には二人きり
快晴ノセカイ
おのこには秘密めきたる雛祭
虎穴虎児
樟脳の香のしみ込みて雛潔し
山河穂香
われのこと忘れゆく母雛祭
後藤三梅
女の子なさぬ吾がためだけの雛祭
一生のふさく
いくたびも雛を飾りて一人っ子
宥光
かしこまる三人官女の鼻の欠け
葉月けゐ
おにいちゃんひなにんぎょうはあたしんじゃ
季切少楽@いつき組広ブロ俳句部
毛氈を引張るチワワ雛祭り
田畑 整
大所帯雛に寝所を空け渡す
きべし
キューピーもペコちゃんもいる雛祭
靫草子
今年また左右に迷う男雛位置
山水
夫婦雛ときには見つめ合いたかろう
山田檸檬
娘なき家にも母の雛人形
輝凜
こつそりと紅をさしたり雛祭り
坂内櫻佳
還暦の独身ふたり雛祭
恋瀬川三緒
四畳半タンスの上の内裏雛
徳翁
雛不在息子三人雛祭
不二自然
雛人形持ちて嫁ぎて舞い戻り
諧 真無子
雛祭伯母の形見や写真見る
蓮風
子が切りし錦糸卵で雛祭り
千曜 桜
うつけのチワワ五人囃子なぎ倒す
伊藤辰弥
おかっぱのひざ小僧並ぶ雛祭り
あらら
嫁がせて飾りなき部屋雛祭
長谷川ひろし
すこし襖開けて窺ふ雛の間
日出時計
男の子ばかり育てて紙雛
かん かんし
ひなまつり19年目の結婚記念日
勉邪明
おもいでがないとぼやいて雛祭り
あらい
樟脳の祖母のにほひや雛祭
村木年子
質素なる部屋の華やぎ雛祭
余田酒梨
天平へスリップするや雛の間
川島欣也
白き顔和紙に隠され内裏雛
むねあかどり
雛祭り男四人で酒を飲む
新谷夏風
毛氈の色褪せてゆく雛祭
星影りこ
ひな祭り雅の心遠きもの
小林番茶
マンションにおけぬ七段雛祭
ミモリ
並べ替え置き換えするや雛道具
妄児
嫁ぐ気のない子も飾る雛人形
小島神泉
男家系孫に期待のひな祭り
大
孫子皆男なりけり雛祭
咲弥あさ奏
父の膝独り占めする雛祭
そまり
悪童の替え歌真似て雛祭
一富士リリー
母も吾もかつては少女ひな飾る
夏雨ちや
雛祭り二日前なら誕生日
上村茶娘
酢飯切る母のしゃもじや雛祭
八幡風花
2Kの和室まるごと雛の家
清白真冬
押入れの匂い懐かし雛祭
猫ふぐ
不揃ひの錦糸玉子や雛祭
ももたもも
雛祭りおてんば娘のすまし顔
田中美蟲角
釣れずとも家に居たとてひなまつり
あたなごっち
母となり婆となり待つ雛祭
加賀くちこ
雛飾り写真の祖母の微笑んで
釜眞手打ち蕎麦
正座して餓鬼大将も雛の客
虚実子
祖母の雛母の雛いて雛祭
まぐのりあ@蚊帳のなか
おねえちゃんは新品ばかりひなまつり
どくだみ茶
結婚だけが幸せなりや雛祭
庄野 酢飯
雛祭三段積のピザの箱
曽我真理子
子も孫もなくて雛祭の愉楽
山内彩月
雛祭すなはち父の誕生日
三崎扁舟
雛祭僕もと末子正座して
雅屋少将
雛祭弟の口の赫い紅
千賀子
樟脳香纏い清しき雛と祖母
つるつるつるりん
雛人形夜の宴を覗きたし
山本蓮子
いえ、恋も愛も知らずに雛祭
蘂六
雛祭ほのと樟脳香りけり
いたまきし
門を開け町をあげての雛祭
くめ仙人
雛祭り祝い寿司ほおばる兄よ
湖林コアユ
吾子をのこ聞こゆ隣家は雛の宴
ひぐちいちおう(一応)
雛祭男の子三人紅遊び
羅美都
初孫は段と背くらべ雛祭
糸宇毬拾
幼児に雛見せれば鷲づかみ
徳永 北道
宅配のピザさまざまに雛祭
もりたきみ
年毎にわがやの貌となる雛
対馬清波
灯ともせば遠き目をして飾り雛
雑魚寝
雛段の仕丁がぼやく宮使え
誠馬ノマド
ちいちゃんは母ちゃんとなり雛まつり
のつり
雛祭アンパンマンを置けと云ふ
あたしは斜楽
行儀良く座って今日は雛祭
やまだ童子
雛人形笑うことなく泣きもせず
中山白蘭
雛祭三代続く奥二重
ゆみづき
内所より酢飯の匂い雛祭
今治八十八
かんばせの雛(ひいな)いつくし古民家よ
広島 しずか80歳
吾子並び四人官女よ雛祭り
ゆぃ
次回の兼題も
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選者コメント
夏井いつき選
「雛祭」を思う時、「しみじみ」という感慨が胸を過ぎります。そこから、次のような展開にいく句がかなり多いのです。
・祖母の笑顔、母の笑顔、娘の笑顔
・亡き母を思う 形見の雛
・あの幼かった子が今は母に……
・三代そろう、四代並ぶ
・老い一人で祝う雛祭
・セピア色の写真
・雛の箱に〇〇の字(祖父母だったり父母だったり)
最後に挙げた「雛の箱に○○の字」を例にとると、このような句材がダメだというのではなく、このラインでやるのならば、どんな字であるのかをしっかりとリアルに描写する必要があるということです。
◆雛人形、雛かざりいろいろ
・オルゴール付(オルゴールの句多数)
・樟脳の臭いを纏っている
・小道具の何かが欠けている
・鼻が欠けている 衣装が色褪せている
・手作りの紙雛 折り紙の折り目が正しい
・〇〇に似ている(母とか娘とか姉とか)
・飾るとき、内裏雛の左右を迷う
・雛段の後ろは秘密基地 かくれんぼ
・お内裏様は見つめ合うことがない
◆雛祭といえば
・ちらし寿司 → 桜でんぶ 寿司飯を扇ぐ 錦糸卵 酢を控えめ
・赤! 桃色!
・給食に三色ゼリー
・宅配のピザ ポテチ 唐揚げ
・「うれしいひなまつり」の唄 替え歌 幼稚園で歌う歌
上記の中の、「お内裏様は見つめ合うことがない」「桜でんぶ」「錦糸卵」「桃色」を句材とした作品で、特選・秀作に入っているものもあります。
独自性や真実味をどんな工夫によって獲得しているのか、研究してみましょう。自分の作品の評価に一喜一憂しているだけでは、学びが停滞します。
佳作・秀作・特選となっている他者の作品の中に、大きな学びがあることを、今回も声を大にしてお伝えしたいと思います。
以下、ありがちであった句材をまとめた資料を貼り付けておきます。
〇飾りたいけれど……
・娘がいない、男の子ばかりだから飾れない ←→ 息子ばかりだけど飾ります
・娘が嫁いでしまったから飾れない
・部屋が狭い! 部屋が占領される!
・ペットの猫や犬が悪戯する
・貧しかったので手作りのお雛様でした ←→ともだちの家の立派なお雛様
〇こんなところに飾られて
・高齢者施設 保育園 病棟 子供食堂
・古民家 旧家
・テレビの上 箪笥 玄関 ピアノ
・各地のイベント的な雛祭 → 石段 家々の軒先 さげもん 天領日田
〇このご時世ですから
・令和はジェンダーの時代
・男の子だって雛祭を楽しみたい!
・コロナ禍で集まれない → ZOOM 硝子越し
〇主役は子供
・女の子の初孫誕生! お姫様!
・お化粧して正座 すまし顔 お転婆も今日はしとやか
・ぬいぐるみやウルトラマンや玩具 何でも一緒に飾る
・ひらがなの招待状
・雛段と背比べ
・妹はおさがりの雛に不満
・弟は拗ねたり羨ましがったり → 弟にも化粧したりする
〇 怖い
・真夜中に動き出しそう
・夜中に笛や太鼓の音が聞こえる
・雛段の後ろの闇
・お雛様の眼が怖い
・子供が怖がる
◆ 類句例
自分の体験ではなく、ぼんやりとしたイメージで作ると、類句の沼に落ちやすいことを肝に銘じましょう。
ナプキンの経血赤し雛祭 きなこもち
ナプキンに血の鮮やかや雛祭 和季
四代の揃ふ山家の雛祭 岩田遊泉
四代の女集ひて雛祭 柚木みゆき
華やいで揃ふ四代雛の宴 虚実子
おばばより女四代雛まつり 銀 次郎
婆ひ孫女四代雛祭 森爺
ねずみ年三代そろひ雛祭 うさぎまんじゅう
寅年のをんな三代ひな祭 このみ杏仁
埋められた棺の如き雛の箱 灰田兵庫
たとふれば棺のやうな雛箱 阿万女@ノエル
マンションのピアノの上の雛祭 陽光樹
吾子の弾くピアノの上に内裏雛 かぬまっこ@木ノ芽
雛祭よこ笛失せて爪楊枝 山中 揚
かりそめに楊枝を撥に雛祭 山河穂香
てけてんと楊枝の撥や雛祭 さとう菓子
※今回の兼題「雛祭」中級者以上投句欄へのご投句は、投句数3421句、投句人数1217人となりました。以下、類想句の一覧です。