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中級者以上結果発表

2022年5月20日週の兼題

蝸牛

【曜日ごとに結果を公開中】

【類想】

選者コメント

夏井いつき

◆まずは、季語としての「蝸牛」から外れるものを確認しておきましょう。

・料理された蝸牛(エスカルゴ) ← 季語としての季節感は希薄です。

・殻だけになっている蝸牛    ← 無くなっている本体をどう描くのか。微妙です。

・「蝸牛被(マイマイカブリ)」  ← これは完全に別の生きもの。


◆初級からやり直しましょう。

 季重なり、あるいはそれに近い句もちらほらありました。「紫陽花」「梅雨」「露」などが季語であることを認識してない人は、初級から出直しましょう。

 「夏眠」? という言葉を使っている句もありましたが、こんな季語はありません。そもそも「夏」の一字がある段階で、気づいて欲しい。


 「敢えての季重なりです」「造語の季語です」とコメントしてある句のほとんどは、失敗作。敢えてやってみる前に、基本をきちんと身につけるのが大切。肝に銘じて下さい。


◆類想パターン

 ありがちなところから押さえていきます。

①形からの連想

  ・ホルン

  ・アンモナイト

  ・こんな字に似ている → @、Q、ゐ、ゑ、の、9、6、ト音記号

  ・渦 → 銀河、宇宙(が生まれる、を背負っている)

  ・ロリポップ(渦巻型のキャンディ)

  ・小さくとも持ち家がある!

  ・ソロキャンプ

  ・自分や吾子や孫のつむじが右(左)巻き  〇〇につむじが二つ


➁蝸牛の生態

  ・雌雄同体である → ジェンダー、LGBT

  ・塩をかけると縮む

  ・コンクリート中の成分でカルシウム補強 → ブロック塀によくいる

  ・歩いた跡が残る、光る、銀色の道

  ・肺呼吸


➂蝸牛の行動、また行動からの連想

  ・食べたものと同じ色の糞をする → 人参食べて人参色の糞、とか

  ・恋矢(生殖器にある槍状の器官)を互いに刺す → 傷つくこともある、命懸け

  ・背伸びする 縮む 波うちながら歩く

  ・牛歩

  ・地球を回す、地球が回る、地球に張り付いている


④蝸牛のイメージ

  ・哲学者

  ・のんびりマイペース

  ・孤独、一人旅


➄オノマトペ

  ・ぬるぬる、ぬらぬら、ぬめぬめ

  ・(痕が)てらてら

  ・のそり、のそのそ


⑥居場所

  ・葉裏、葉先

  ・墓石や石碑などの字の上

  ・ポスト、郵便受け

  ・ブロック塀、アスファルト

  ・窓ガラス → 腹を見せたり、何か字を書いたり


⑦子供が蝸牛を見つけると

  ・囲む、 声をあげる

  ・つつく、摘まむ、ひっぺがす

  ・童謡を歌う

  ・グーとチョキで蝸牛の形をつくる


⑧蝸牛と自分(人)を重ねる

  ・引きこもる、殻にこもる

  ・動作がのろい(老いていたり、怪我していたり)

  ・のんびり、マイペース

  ・自分もマイホームが欲しい

  ・殻の中に哀しみや淋しさ

  ・(自分の)幼き日を想う


➈あるある

  ・さっきの蝸牛がまだここに

  ・雨に喜ぶ

  ・「〇〇(葉裏とか塀とか)に静か」 

  ・蝸牛が鳴いたり唄ったり

  ・蝸牛を踏んでしまった……ぐしゃ

  ・(たったこれだけの距離が)蝸牛にとっては遠い、遥か

  ・殻だけになって転がる

  ・どこから来た、どこへ行く


◆思いがけない類想

 蝸牛の殻の螺旋や渦からの発想なのでしょうが、「宇宙」「銀河」になぞらえたり、取り合わせたりする句が思いの外多かったのは、少々驚きました。

  蝸牛の渦に宇宙は生まれけり     ぐ

  ででむしの渦から銀河系宇宙     満る

  それぞれの宇宙を背負ひ蝸牛     そめいゆ

  蝸牛銀河ひとつを背負ひける     寺尾当卯

  かたつむり宇宙背負っているのかも 石井一草


 さらに、殻から、ヤドカリなどを発想したのかもしれませんが、「海の記憶」というフレーズにたどり着く人たちも多く、こんなところに類想の落とし穴があるのかと。

  透く殻に海の記憶やかたつむり    雪井苑生

  殻いつぱいに海の記憶やかたつぶり  石上あまね

  かたつむり海の記憶をたぐる朝    猫髭かほり

  かたつむり原初の海の記憶背に    久保田A


◆類想との付き合い方

 毎回の述べていることですが、 類想は「共感の土台」でもあります。

類想を類想のまま十七音にすれば、当然、凡人ということになりますが、「共感の土台」の上に、五音分のオリジナリティ、リアリティをどう盛り付けるか。そこが勝負所なのです。

 毎回の、特選・秀逸には、類想を「共感の土台」として、見事な独自性や真実味を加味した作品が並んでいます。

 自分の句がどのランクであったということばかりに一喜一憂するのではなく、他人の作品から何を学ぶのかが、重要。仲間の作品から学ぶという謙虚こそが、俳句上達のための「奥の近道」なのです。


※今回の兼題「蝸牛」中級者以上投句欄へのご投句は、投句数3879句、投句人数1418人となりました。以下、類想句の一覧です。

類想一覧(選外)

  • 僕もまた隠れしままの蝸牛

    橋本彩雅

  • うたた寝の蝸牛ならむ地に堕ちぬ

    天東あさじ

  • 引き返す術も知らずや蝸牛

    仲 操

  • かたつむり海の記憶を背負ひけり

    干しのいも子

  • うす緑色のまいまい葉の真中

    まち眞知子

  • 古塀に茶の渦キリリ蝸牛

    まあぶる

  • シンプルな住まひなるかなかたつむり

    もふ美

  • 雨の中上へ上へと蝸牛

    博さん

  • 葉から葉へアクロバティック蝸牛

    てまり

  • ガラス越し波打つ脚や蝸牛

    暇禍

  • でで虫や戻る道なき過ぎた日よ

    こまどり

  • 朝参り歩跡ぬるりと蝸牛

    まー坊

  • 守りをり鎧一つに蝸牛

    雅由

  • 雨雲と交信中やかたつむり

    土田耕平

  • 墓石にピリオドのごと蝸牛

    秋野茜

  • 利き巻きは右が殆ど蝸牛

    高市青柘榴

  • 結びの地句碑の「や」で待つ蝸牛

    紫月 歪丸

  • ゆるやかな銀河の渦や蝸牛

    夏草はむ

  • 雨粒のノック目覚める蝸牛

    加和志真

  • かたつむり雨の匂いに目を覚ます

    川島欣也

  • 蝸牛ここが私のお城です

    たまのねこ

  • 締め切りに追われし我が身蝸牛

    ろひさま

  • キャンピングカーの長旅蝸牛

    塩風しーたん

  • 背に余る殼かるがると蝸牛

    ちやこ

  • 何時もシェルター背負う蝸牛

    田畑せーたん

  • 葉の小窓わたしはここに蝸牛

    たかこ姫

  • 蝸牛最近見かけぬ顔を出せ

    雅蔵

  • 挑戦の敵は晴れ間か蝸牛

    上津 力

  • コンクリを食ふてバリする蝸牛かな

    まなP

  • かたつむり介護度3の母の歩よ

    竹春エリザベス

  • 国会は牛歩戦術蝸牛

    上村 風知草

  • 蝸牛右巻きに地球は回る

    晴 あろは

  • ででむしや雨漏りの音の四畳半

    夕波 あろは

  • 身をたたみ耳を澄ませり蝸牛

    勝瀬 啓衛門

  • ででむしのあゆみの先の青き空

    笠山静香

  • 蝸牛干されて白し這い跡が

    望月ぽん

  • 蝸牛左右の角を納めけり

    よかわもりお

  • 葉先から隣の葉へと蝸牛の重み

    靫草子

  • 憧れのキャンピングカーかたつむり

    川上 生煎

  • まいまいや溺れはせぬかみずたまり

    喜多輝女

  • 踏まれるよそっと摘んだかたつぶり

    大阪駿馬

  • 雨上がる田んぼ蝸牛の座談会

    古賀ちん

  • 家探し川の近くの蝸牛

    広田浩二

  • てらてらと銀を継ぐなりかたつむり

    山口鵙

  • そろりそろり風呂場の椅子のかたつむり

    角野角子

  • ジェンダーレスきみは先行く蝸牛

    木ノ道 ミシェル

  • 校長の話は長く蝸牛

    なかの花梨

  • 蝸牛確かに記す銀の道

    霧峰

  • 蝸牛雨の匂ひを感じたり

    紋舞蘭

  • 蝸牛殻あるだけで愛されて

    打楽器

  • 葉の裏で雨やり過ごす蝸牛

    勘太郎

  • マイマイのヒダ打つ歩み塀に有り

    大木典子

  • 蝸牛ひかる痕跡残しけり

    蔵原遼太郎

  • ぬらぬらと濃き銀揺らし蝸牛

    吉谷地由子

  • ののののの並びをるかな蝸牛

    ウカイケンタロウ

  • 家背負ひ草木の主人や蝸牛

    美音

  • 宿命や哀しみ背負ふ蝸牛

    リカ

  • 蝸牛下校の子らに突っつかれ

    新開ちえ

  • かたつむり殻も大きくなる不思議

    小林番茶

  • 蝸牛我羨望の家持ちか

    一碁一会

  • 黄合羽が一ニ三四蝸牛

    ねずみ男

  • 蔓延りて狭庭の枝の蝸牛

  • かたつむり左巻きなり吾のつむじ

    だけわらび

  • 園庭の木の裏潜む蝸牛

    ゆぃ

  • 全力の蝸牛よきかな角ゆらし

    峰 乱里

  • 雨音を角へ殻へと蝸牛

    はぐれ雲

  • かたつむり好き雨が好き歌も好き

    渡会百々世草

  • 草取りの行く手を阻む蝸牛

    野良人たま

  • 予報では午後からは雨蝸牛

    みなみはな

  • 蝸牛踏切渡る老夫婦

    元喜@木の芽

  • 蝸牛マイホーム持つお金持ち

    西谷 寿春

  • かたつむり雨宿りする木の下で

    みやまる

  • 蝸牛雨降り出して歩き出す

    一日一笑

  • 雨の中葉っぱの上で舞踏会

    加曽利アン 太郎

  • かたつむり雨の音聴き葉を食べて

    さくらんぼ

  • 蝸牛殻を破ってナメクジに

    加曽利アン 佐武郎

  • 蝸牛つの出し見つめるかごの中

    トラウマ製造機

  • 雨の音顔を出さねば蝸牛

    raito

  • カタツムリ渦巻く波の殻のよう

    はなかっぱ

  • かたつむり陽だまり目指して徒競走

    つーさん

  • 空見上げ僕の心はかたつむり

    キン肉マン

  • かたつむりかこむランドセルの四人

    おのまい

  • マルクスと名付けて遊ぶ蝸牛

    ひすい風香

  • 小庭の絶滅危惧種にかたつむり 文部省唱歌得意やかたつむり

    薮久美子

  • 表札に一画増やす蝸牛

    一本橋ふくろう

  • 独りでも持家はあり蝸牛

    おさむし

  • 家は定め納得したる蝸牛

    伊藤順女

  • 我家では絶滅危惧種かたつむり

    玉川 徳兵衛

  • 蝸牛枝垂れる葉先露ひとつ

    くろべぇ

  • 闇夜中まだそこに居るかたつむり

    卑弥呼

  • 硝子はう蝸牛おう透けた指

    島陽広

  • この星やヌメる蝸牛の腹の下

    斎藤さんけん

  • 背の家は重くは無いか蝸牛

    鶴岡木の葉

  • ブロックへ雨滴からびる蝸牛

    二郷京子

  • 蝸牛亀と私と駆け比べ

    知恵さん

  • かたつむり殻に隠すや黄金比

    アンサトウ

  • 蝸牛去りたる玻璃に銀の筋

    きのと

  • かたつむり葉裏に縋る暴雨の夜

    青柳暁子

  • でで虫や白壁つたうクライマー

    よみちとせ

  • 粛粛と土手を横断蝸牛

    二丁目

  • 蝸牛朽ちたベンチをぬるり這う

    葉子@金カル

  • 蝸牛いじける時は殻に入る

    那須のお漬物

  • かたくなに宿ははなたず蝸牛

    吽田のう

  • 一枚の葉っぱの世界蝸牛

    いなほせどり

  • 秒速の記録2ミリの蝸牛

    香栄

  • 木星の堕ちて這ひたる蝸牛

    龍 桔花

  • でで虫に時をり庭木の雫かな

    大村真仙

  • 多種多様絶滅危惧種蝸牛

    瑠璃星

  • かたつむり冷たい雨の中にゐて

    愛燦燦

  • 銀色に描く来し方蝸牛

    和泉攷

  • 蝸牛吾と散歩のぽっくり寺

    えいぎょ

  • 蝸牛けふも陸にて居候

    安部亜喜代

  • 我が持病ゆっくり粘り蝸牛

    りんごのほっぺ

  • 蝸牛僕も出来るよグーとチョキ

    諫鼓苔深

  • かたつむり戸の無き家に眠りたる

     どいつ薔芭

  • 空を飛ぶ夢を持ちをり蝸牛

    岡山小鞠

  • ゐの形ゑの形めくまひまひは

    えりべり

  • 粘りつつ歩み確かや蝸牛

    中島走吟

  • かたつむり夜空見上げて何思ふ

    藤倉密子

  • ぐうわんと葉にででむしの重さかな

    高橋寅次

  • フリルめく飴色の腹かたつむり

    宮武濱女

  • パスカルと名づけて愛づる蝸牛かな

    いこん

  • コンクリ食う足取り重し蝸牛

    鳥不驚

  • ゆつたりと時を巻きては蝸牛

    五十 理化

  • あの歌詞のでんでん虫と教へけり

    小林弥福

  • 雨の矢や吾子でで虫を葉陰へと

    帯壱

  • カタツムリ雨がしとしとゆっくりと

    きたつむり

  • かたつむり緑の屋根で雨宿り

    りーこ

  • 蝸牛じっと見つめる体育館

    ユリ

  • デートにも間に合わないよかたつむり

    田中 ぱんだ  

  • でで虫や刃ぬるりと渡りきる

    新多

  • 傘を持つ蝸牛さん雨降るよ

    星陵

  • 雨香るキャンピングカーカタツムリ

    アムロ

  • 命懸け横断歩道蝸牛

    またあ

  • 蝸牛結婚を言い出さぬひと

    Nakahara結月

  • ででむしの角に触れては雨の中

    千の葉

  • 肩に雨僕は逆巻きの蝸牛

    山次

  • ぐるぐると悩んでうなるかたつむり

    とろろ

  • 葉脈の光が標かたつぶり

    土佐藩俳句百姓豊哲

  • 蝸牛一筋光る己が過去

    山口雀昭

  • 明日やれることは明日やるかたつむり

    てんちょう

  • リハビリの一歩は長し蝸牛

    竹内ユキ

  • ででむしふるさとどこだ童謡の中

    小塚蒼野

  • 卵殻の中の微睡み蝸牛

    虎堂吟雅

  • 足運び意外に速し蝸牛

    つじの五七五

  • 蝸牛梵字の凹み住処にす

    まりい@木の芽

  • うすらびの雨はうれしや蝸牛

    たむらせつこ

  • 雨欲しき干上がるダムや蝸牛

    夏目たんちゃん

  • 蝸牛殻が汝の命かや

    増田 悠佑

  • 幼き日やわき手にありかたつむり

    増田 昴

  • 背伸びしてスクワットするカタツムリ

    増田 幸司

  • ツノを出し這った足跡蝸牛

    寺木 風宣

  • 降りはじむ雨の匂いや蝸牛

    吉田わさび

  • 八十路超え日々新たなる蝸牛

    宮沢 韋駄天

  • 重力に逆らうてゐるかたつむり

    吉川拓真

  • 日暈やコンクリートを食む蝸牛

    孔明

  • カタツムリ丸テント捨てしナメクジ

    榊裕江子

  • 蝸牛朝はあちらに昼はここ

    ゆかりん

  • ででむしや葉の滴浴び角隠し

    山本蓮子

  • 顔出さぬででむしなれば触れてみむ

    はれまふよう

  • 人生を背負うがごとく蝸牛

    早坂 一周

  • 小一時間で一尺ほどか蝸牛

    田中美蟲角

  • 宿背負い放浪するか蝸牛

    午 勢至

  • 鬱々と進まぬ吾は蝸牛

    山法師彰子

  • 進むほど茎を撓らせ蝸牛

    可笑式

  • 窓を這う腹なみなみと蝸牛

    定吉

  • カタツムリ食ふ国有りと知りし日よ

    紅小雀

  • 盤上の長考蝸牛むむむ

    松本裕子

  • ででむしの葉先につれて速くなり

    三浦金物店

  • まいまいや雨の宇宙と交信す

    風花まゆみ

  • 決心し後に戻れぬ蝸牛

    大谷如水

  • かたつむりカリカリ石も食べており

    細川小春

  • 蝸牛行くか帰ろか決めかねて

    大石健宗

  • かたつむり殻から出でて一歩づつ

    石橋猿山

  • 五センチの遠きを知るや蝸牛の歩

    伊藤てまり

  • 雨近し木の葉に遊ぶ蝸牛かな

    ちゅーちゃん

  • 故郷の時の流れや蝸牛

    香山まつり

  • 発条を巻いてやろうか蝸牛

    余田酒梨

  • 葉のかたちいちいちねぶりかたつむり

    どみ どみそ

  • かたつむり今日は休みて明日歩め

    桃香

  • 蝸牛葉脈そろり茎さわり

    まやっこ

次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
お待ちしています!

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