類想一覧(選外)
まだ母の温みを残す寒卵
テツコ@第二まる安
寒卵割る僥倖の黄身二つ
リカ
必勝のカツとじに割る寒卵
音のあ子
百歳のまだ生きむぞと寒卵
英子
殻割らば日出づる如き寒卵
弥勒夕陽
りうりうと黄身もちあがる寒卵
二郷京子
鶏の目を盗みつつ寒卵
余田酒梨
黄身二つ仲良くならぶ寒卵
堀居 外郎
病む友に日ごと生みたて寒卵
端 花菖蒲
目玉焼く黄身の高さよ寒卵
國本秀山
てのひらに載せて重たき寒卵
塩野谷慎吾
恙無き日々のありたり寒卵
たむらせつこ
昨晩の味噌汁に割る寒卵
野口真砂輝
幼子の手にくるまるる寒卵
花みずき
黄身二つ幸が重なり寒卵
越後縮緬
寒卵米は釜炊きコシヒカリ
清水縞午
授乳終へいそいそと割る寒卵
秋野しら露
寒卵老いてこの先医者いらず
たかこ姫
寒卵割る菜箸の挿せぬ黄身
紅紫あやめ
朝の陽の充つる厨や寒卵
みやかわけい子
健康を願う人あり寒卵
梅井さきこ
漁に出る父の膳には寒卵
きべし
ぶっかけのゆるりと座る寒卵
羅美都
寒卵眠る魂いただく日
想予
こんな夜は君と寝酒の寒卵
くろべぇ
寒卵みっつ使ってオムライス
戸田なお
朝餉には黄身の色濃き寒卵
真林
赫赫と昇る朝日や寒卵
北山 烏兎
温泉にゆらゆら竹籠の寒卵
雨李
寒卵透かせば命芽生えおり
みうら朱音
木のうろへ無尽のいのち寒卵
晴田そわか
菜箸にいのちの硬さ寒卵
灰色狼
炊きたての飯やとんとん寒卵
里山疎水
ひとり居のまるごとひとつ寒卵
新多
あす試験カツカレーに寒卵
沙季一世
寒卵幟はためく道の駅
余熱
幟旗誘われて入る寒卵
六花
殻かたく黄身溶きがたく寒卵
伊藤順女
遺伝子に優劣あるや寒卵
東京堕天使
百歳のお肌つるつる寒卵
花純
朝市の寒卵六つ喪の友へ
たけぐち遊子
寒卵赤子抱くやう掌に載せり
円美々
寒卵嬉しオムライスの黄色
京あられ
まらそんの朝餉に二個ぞ寒玉子
えいぎょ
寒卵果てのない宇宙銀河系
詩
決勝の朝ぐい飲むや寒卵
万葉剣
背よ伸びよ熱々ご飯に寒卵
きょんちゃん
受験の朝一気呑みせり寒卵
acorn
寒卵ご飯三杯伸び盛り
たなべ早梅
ぽこぽこと気泡産まるる寒卵
むったん@狐狸山会
コロンブス知っていたかい寒卵
邦生
温もりを祖母に差し出す寒卵
梅花
寒卵透明の中に在る生
リーガル海苔助
新境地飛躍願いし寒卵
松浦照葉
寒卵煮込みうどんの只中へ
西村 棗
溶く箸に抵抗強し寒卵
晴好 雨独
大粒の寒卵割海苔の上
山口雀昭
少しでも現役長く寒卵
峰 乱里
寒卵飯のくぼみに到着す
松本裕子
寒卵掻き込み急ぐ試験場
垣岡凡才
カンカンと検品さるる寒卵
山内三郎
一病と生きる八十路の寒卵
ひろ志
寒卵呑むとき吾も蛇ならん
龍田山門
寒卵ライブ初挑戦の朝
岡田瑛琳
寒卵賞味期限のあと八日
松田昂
夜勤明け牛丼掻っ込む寒卵
雅屋少将
寒卵チキンラーメン麺に乗せ
ふくびきけん
手の震う祖父の粥にも寒卵
季切少楽@いつき組広ブロ俳句部
御命頂戴炊き立てに寒卵
忘れちゃった
寒卵糞にまみれて生まれけり
蘇子
コンと割り黄身に見入るや寒卵
渡部 あつし
平飼いで美味しゅうなあれ寒卵
オイラー
追込みの深夜の学び寒卵
三水
こころもち重くて硬き寒卵
伊予西条藩俳句御用掛 銀 次郎
寒卵は牛丼店でつゆだくで
出来筆樹
出産の祝いに届く寒卵
阿万女@ノエル
登山へと孫リュックには寒卵
羽光
寒卵啜りて父の齢越ゆ
堀邦翔
微かなる命の温み寒卵
いつか
いざ出陣姿勢正して寒卵
開一
熱飯に落とし寒卵弾みたる
渋谷背馬
鶏あまた死す寒卵地に残し
寂し野欅
寒卵とりかえしたきいのちあり
服部あや
寒卵呑みてロツキー気分なり
あたしは斜楽
早出の夫のかきこみ飯や寒卵
笑酔
500のゲージにほかほか寒卵
小林番茶
突く箸をするり避けたり寒卵
重夫
ぬらぬらと喉下りゆく寒卵
石井瑩
早朝の手のひら温し寒卵
酔蚊眼
寒卵割れば黄金踊りだす
アムロ
産みたての少し暖か寒卵
みゃー句ん
寒卵コチンと今日は頑張る日
越智空子
納豆の粘りまろやかに寒卵
黒田
スーパーの光り輝く寒卵
Grandeur
親心試合の朝の寒卵
ピアノおじさん
寒卵にぎらぬ程に手につつみ
岩元凡空
スプーンでひびを入れてる寒卵
大野美波
彼の頃や見舞いに包む寒卵
聞岳
炊きたての御飯はまだか寒卵
埼玉の巫女
二つ目は毒と言はれて寒卵
伊江かつじ
寒卵採る少年の耳真つ赤
剣橋こじ
白粥へ黄身きらきらと寒卵
杜乃しずか
殻ざごと滋養いただく寒卵
入道 まりこ
寒卵と飯をかっこみリュック背負う
モンヌ組宮本モンヌ
もみ殻の上に眠りぬ寒卵
高山佳風
百歳を目指して姑の寒卵
小池博美
寒卵ピクピク息づく生命(いのち)の温もり
橋本諒駿
いのちとはやはらかきもの寒卵
鷹星
苦学生命を繋ぐ寒卵
篠田ピンク
寒卵箸ののの字にほどけゆく
泉晶子
寒卵中で渦巻く銀河系
足立とんび
エコー写真もう生きている寒卵
駄々
餌撒き庭に集め摘む寒卵
牧野博士
健診結果黙し啜るや寒卵
石田将仁
小包のふるさとづくし寒卵
かなえの
寒卵一つだけ割る一人鍋
青鷹
麺啜る曇る眼鏡や寒玉子
暇禍
小屋の中コロリ一つの寒卵
多摩川風子
寒卵ぷるんと箸の先の黄身
海野あを
寒卵小さき穴よすすりけり
大村真仙
一椀の粥に光りて寒卵
樫内なつめ
朝採りの命の温き寒卵
大谷如水
ことごとく光に透ける寒卵
喜多丘一路
寒卵食べる毎日食べる
丘るみこ
寒卵無邪気な茶碗に黄身二つ
宮沢 韋駄天
おひさまの一日くるむ寒玉子
haruwo
薬袋ひとつ減るなり寒卵
淡湖千優
寒卵母の白寿の祝膳
あっくん
鳥卵何が違うの寒卵
竹の家
ぬくもりや幸福を呼ぶ寒卵
いちご
コッコココ寒卵まだ暖かい
ドキドク
朝飯に婆婆が摘み取る寒卵
竹令呑
真夜中のカップうどんへ寒卵
ノアノア
盛り飯をむさぼらせるや寒卵
はるかん
寒卵ぷるると醤油弾きけり
はれみちる
「チン」を待つ冷や飯二つ寒卵
オアズマン
終戦後病気見舞いに寒卵
かとしん
寒卵寝坊した吾の強き味方
ぐりぐら京子
寒卵食らいて使う命かな
中 はじめ
日にすかし生命を拝む寒卵
こいぬ
寒卵キッシュにプリン七変化
さくらんぼ
疎開先身重で食べる寒玉子
ひーたん@いつき組広ブロ俳句部
甥っ子のひたいで割った寒卵
ヒマラヤで平謝り
驚きし黄身二個入りの寒卵
中村笙平
寒卵小さき羽の付く一つ
まち眞知子
寒卵ごくりと飲みてジムへたつ
しまのさつき
箸嫌ひくるくる回る寒卵
仲 操
膝痛む吾いとおしみ寒卵
そうま純香
寒卵鶏のお腹の羽根をつけ
まりい@木ノ芽
藁苞に並ぶ白さや寒卵
堀雅一
宇宙にはいくつの地球寒卵
やまさきゆみ
湧き出づる元気もりもり寒卵
たこぼうず
かさかさの手のひら光る寒卵
森中ことり
箸突くか摘まんでみんか寒卵
たていし 隆松
炊きたての御飯に一つ寒卵
れんげ畑
寒卵割りて一羽を殺生す
亜沙郎
産み落ちて鶏舎ころころ寒卵
安寿
臨月の女房にけふの寒卵
瑞陽庵
運が良く黄味は二つの寒卵
一日一笑
健やかに我も生きたし寒卵
杉山駄芭
白めしを甘噛みするかに寒卵
旺上林加
オムレツのケチャップ甘し寒卵
杉柳才
寒卵命の連鎖ほおばりぬ
岡崎 秀恵
威嚇の目けいふんついた寒卵
清水千種
籾殻に守られ届く寒卵
加和志真
点々と殻に糞つく寒卵
誠馬ノマド
攪拌の箸の重たき寒卵
橋本こはく
寒卵割る一瞬の憂ひかな
月城龍二
殻少し硬くしまりて寒卵
石崎京子
殺処分終えた鶏舎に寒卵
原島ちび助
鶏無惨ひとつ残りし寒卵
原颯太
寒卵湯気立てひとつ産みにけり
沢瀉みやこ
寒卵焼く今朝プレゼンへ準備よし
江藤 薫
二個なんぞもったいなくて寒卵
津軽まつ
枕元婆の持て来る寒卵
紅小雀
健診より帰宅寒卵二個に
紅茶一杯
寒卵先ず手を合わせ殻を割る
定吉
寒卵抱え早朝凸凹道
高市青柘榴
寒卵のまるき温もり手にそうて
田村美穂
寒卵夫の茶わんへ一つ割る
国東町子
〝ガリ〟殼だ寒卵のぶっ掛け飯
佐藤 啓蟄
ちゃぶ台の黄身の身震い寒卵
佐藤のぶ子
寒卵ご飯バターのかけら入れ
田中勲
電球にかざしてほのか寒卵
沙那夏
時疫にと新聞包み寒卵
田畑せーたん
朝日さす一家の卓や寒卵
三崎扁舟
寒卵もみ殻詰めし化粧箱
田邉真舟
温飯に曙光の如き寒卵
山水
寒卵手を伸ばし取り笑む媼
藤 えま
陽光のごと黄身眩し寒卵
山川腎茶
放し飼う鶏舎の角の寒卵
山川土時
祖母の手や藁より掴む寒卵
山内順子
飯茶碗ねっとりと黄に寒卵
字坊人造
寒卵黄身の濃いも薄いも個性
縞ふみ
寒卵割れば大吉黄身二つ
若林雛げし
陽に透かし耳に当てたり寒卵
秋星子
食細くなりにし父や寒卵
常盤あけび
寒卵入れて馳走のカップ麺
藤源卿
寒卵いのちかそけき宇宙地図
日田路
寒卵おのがさだめと飯の上
播磨 太郎
寒卵や温もり伝う朝ここに
白井 佐登志
ぶるるんと生み落とさるる寒卵
風花まゆみ
寒卵鉢に落とせば双子かな
宝塚御殿子
寒卵昭和の母の強きこと
峰泉しょうこ
吉日や割れば双子の寒卵
豊岡重翁
寒卵戦地の子等へ届けたし
夜ノ森ムーミン
あの頃の見舞ひはいつも寒卵
遊泉
忙殺の日々よ寒卵のごと気でゆかん
緑茶花
寒卵土に埋める鶏千万
露崎一己句
細胞は呼吸してゐる寒卵
朶美子(えみこ)
お裾分け前掛け抱く寒卵
淺野紫桜
食う術はかけ御飯かな寒卵
髙見艀舟
次回の兼題も
皆さまふるって投句してください。
お待ちしています!
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選者コメント
夏井いつき選
◆「寒卵」の必然性とは?
今回の兼題の最も難しかった点は、「寒」の一字の必然性です。
正直なところ、ただの「卵」でいいんじゃないか……という句がもの凄く多かったのです。
◆「寒卵」は美味しい!
卵かけご飯が沢山届くに違いないだろうと、予想はしていましたが、予想を遙かに超える勢いでした。
熱々の白米。ご飯のてっぺんの窪み。お醤油を弾く新鮮さ。特別な醤油……このあたりをテッパンの類想として、おかゆ・うどん・蕎麦・味噌汁に入れる卵。オムライス・オムレツ・卵焼きなどのメニュー。殻に穴をあけて飲む、等。
これらの句のほとんどは、「寒」の一字の意味がみえてきませんでした。
◆「寒卵」は滋養に富み、貴重!
だから、元気をもらう。ここぞという時に!(受験前、試合前、仕事の前、プレゼン前など。)夜勤前に寒卵、夜勤明けに寒卵。妊娠中、産後に寒卵。病人に食べさせる。老父、老母へ食べさせる。見舞いとして持参。土産として持参、等々。
◆寒卵は「命」の象徴
さらに、ベタだなあと感じたのは、「命」という発想でした。
命をいただく、賜る。命を想う、余命を想う。出産、赤子の生命力(等との取合せ)。鼓動を感じる、等など。
他にもキリがないほどの、類想ポイントが並んだ今回の兼題「寒卵」。類想句を分類して、自分なりのデータを作ってみましょう。
さらに、どうやれば、類想の土台に、リアリティ・オリジナリティを盛ることができるのか。とても勉強になる回ですから、各自研究してみましょう。
◆先行句とのせめぎ合い
十七音しかない俳句は、類想との闘いですが、さらに力量があがってくると先行句とのせめぎ合いにも遭遇するようになります。
今回の投句の中にはこんなせめぎ合いもありました。
「寒卵ならべる二個の相寄らず kikuti-aya」
「寒卵二つ置きたり相寄らず 細見綾子」
「寒卵楕円に戻り来る愉悦 橋本こはく」
「寒卵どの曲線もかへりくる 加藤楸邨」
「寒卵臀うつくしくならびけり 浜友輔」
「青梅の臀うつくしくそろひけり 室生犀星」
それぞれ前者の投句に対して、後者の先行句が存在することだけをお伝えしておきます。それらを己の句として、未来の句集に掲載するか否かの判断は、作者御本人に委ねましょう。
※今回の兼題「寒卵」中級者以上投句欄へのご投句は、投句数4084句、投句人数1567人となりました。以下、類想句の一覧です。