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中級者以上結果発表

2021年7月20日週の兼題

流れ星

【曜日ごとに結果を公開中】

秀作

  • 手のひらに九つの丘流れ星

    ふもふも

    選者コメント

    夏井いつき

     「手のひら」という小さなものに「九つの丘」があると、イメージを重ねることによって、下五「流れ星」の映像へとゆっくりと変わっていくような効果。九つの丘とは、手相における、金星丘、第一火星丘、木星丘、土星丘、太陽丘、水星丘、月丘、地丘、第二火星丘なのだとか。手のひらにある宇宙を思わせる、これらの名前が、実はこの句の隠し味なのですね。
  • 流星やあまた野に濡れ草の罠

    RUSTY=HISOKA

    選者コメント

    夏井いつき

     頭上を飛ぶ「流星」、地上に広がる野。その対比もさることながら、野に残っているのは、昼間子どもたちが作って遊んでいた草の罠。それが夜気に濡れているという光景です。ほんのり匂う草、ひんやりと濡れる靴先。野に見る流星の美しさを、嗅覚や触覚のリアリティが支えます。
  • 流れ星父の死いまだ詩とならず

    常幸龍BCAD

    選者コメント

    夏井いつき

     一読したとたん、私自身が父の死を受け入れられるようになるまでの年月を、まざまざと思いだしてしまい、胸を衝かれました。私は、父の死を受け入れられなくて、貧しい詩を書き殴り、己の心を鎮めようとしました。それなりに長い時間をかけて、父の死を受け入れられるようになりましたが、それらの思いが「詩」となり得ているかと自問自答してみると、否と答えざるをえません。「流れ星」は、まだ我が心の暗闇を飛びしきっているのかもしれません。
  • ダッフィーを膝に流れ星をむねに

    霏々

    選者コメント

    夏井いつき

     クマの縫いぐるみダッフィーを膝に置いて、窓の外の流れ星の美しさを胸にたたんで。そんな夜の光景でしょうか。ベランダのベンチ、グランピングの夜と、光景をさまざまに広げて読んでもいいですね。
  • 流星の百尋へらへらと蒼し

    アロイジオ

    選者コメント

    夏井いつき

     「百尋(ひゃくひろ)」とは、長さです。尋とは、日本の古い慣習的な長さの単位で、両手を広げた長さを指します。釣り糸を沈める目安なども、尋が使われますね。その古い単位を「流星」の表現として使った面白さ。「へらへら」という動き、「蒼し」という色合いにも工夫があります。
  • 流れ星缶へ不眠の灰落とす

    かむろ坂喜奈子

    選者コメント

    夏井いつき

    「流れ星」から「缶」に展開する映像です。中七「~へ」の助詞の効果、「不眠の灰」という表現の経済効率、さらに「落とす」という動作。眠れない夜の一場面を、煙草という言葉を使わずに、それを見せる。実力あってこその巧さです。
  • 大鍋のスープや流星しゆぼんしゆぼん

    彼方ひらく

    選者コメント

    夏井いつき

     こんな句も楽しくていいなあ。大鍋にはたっぷりのスープが煮えています。あたたかい湯気もたっぷり。美味しそうな匂いもほっこり。そんな夜を、流星は「しゆぼんしゆぼん」と飛んでいるのです。オノマトペの温かみに癒やされるような作品です。いやいや、この大鍋は魔女の煮るヘンゼルとグレーテルの……と読む人がいても、勿論よいのです。そんな世界も含んでの楽しさです。
  • 流星に微かに揺るる制御棒

    樫の木

    選者コメント

    夏井いつき

     「流星に微かに揺るる」という措辞、特に中七への展開は少し緩いようにも思われるのですが、下五「制御棒」が出現したとたん、一句の世界が愕然と変わります。制御棒とは、[原子炉停止または出力制御のために、中性子吸収によって炉内の中性子数をコントロールする棒]であると、辞典には解説してあります。流星のかすかな振動が、原子炉の中の制御棒に及ぶ。それを思った瞬間、ひたひたとした恐ろしさが押し寄せてきます。流星は、青く青く不吉な尾を引いて、頭上をよぎっていきます。
  • 配給の行列最後尾は流星

    ふるてい

    選者コメント

    夏井いつき

     何かの列の最後尾を描いた句は沢山あるのです。が、この句の特徴は二つ。まずは上五「配給」によって、何を目的とした列であるのかが分かること。そして、もう一つは後半「最後尾は」と、その位置を指し示しておいて、それは「流星」であるよ、と展開する手法。これによって一気に詩が動き出す、素敵な作品です。
  • 酩酊転倒ああ流れ星かよ

    理酔

    選者コメント

    夏井いつき

     「酩酊転倒」という入り方が可笑しいですよ。酒飲んで酔っ払って、転倒して。酩酊転倒した己を「ああ」と自嘲し、「流れ星かよ」と嗤う。その表情がリアルに見えてくるのですよね、この句。状況を述べているだけのようでいて、「流れ星」という季語をありありと見せる。肩の力を抜きすぎているぐらい抜いているのに、成立しているのだから、やられてしまいます(笑)。

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