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中級者以上結果発表

2023年6月20日週の兼題

【曜日ごとに結果を公開中】

秀作

  • 遠雷や猫うすあをく帯電中

    樋口滑瓢

    選者コメント

    夏井いつき

     「遠雷や」と詠嘆した後に取り合わせたのが「猫」。その猫が怯えているとか膝に来るとかではなく、「猫」そのものが「帯電」しているという把握、そして「うすあをく」という描写に詩的リアリティがあります。
  • 硝子てふさびしき壁を雷走る

    常幸龍BCAD

    選者コメント

    夏井いつき

     硝子張りの高層ビルを想像しました。硝子を振動させるように轟く雷鳴。「硝子」を「さびしき壁」と感じ取る作者の心そのものが詩です。強い雷鳴から遠雷へと移っていく時間経過も味わえる作品です。
  • なま臭き雷鳴近しシャワー浴ぶ

    シュレディンガーの獏

    選者コメント

    夏井いつき

     どこかに落雷したに違いないと思えるような激しい雷鳴。空気が一気に腥くなってきます。「雷鳴近し」と終止形で言い切った後の場面転換。「シャワー浴ぶ」全身に、雷の電気が走ってきそうな不穏が、鮮やかな作品です。
  • 雲は雷孕みてなんと脆き船

    ツナ好

    選者コメント

    夏井いつき

     頭上の暗い「雲」の奥には、「雷」が潜んでいるのです。「孕みて」という腥い表現、「なんと」という詠嘆、さらに「脆き船」という比喩。それぞれがイメージを結び合いつつ詩を構成していく、魅力的なアプローチです。
  • 火起しの木の匂ひ濃し雷はるか

    巴里乃嬬

    選者コメント

    夏井いつき

     摩擦熱で火を起こす時の「木の匂ひ」を実際に経験したことはないのですが、「濃し」と言い切ることで、読者の追体験を促します。火を含んだ「雷」が少しずつ遠ざかり、手元には「火起こし」の火が育っています。
  • いかづちや猿の睾丸あをあをし

    いかちゃん

    選者コメント

    夏井いつき

     「いかづちや」の詠嘆に取り合わせられているのが「猿の睾丸」。野生のボス猿か、動物園の猿山に生きる猿か。「あをあをし」という描写が、「いかづち」の音に先だつ雷光を想起させて不穏。猿の生臭い匂いもしてきます。
  • 根元より割れて雷立ちあがる

    古瀬まさあき

    選者コメント

    夏井いつき

     大木とか神木とか書かなくても、「根元より割れて」で樹齢の古い木であることが想像できます。「割れて」からの後半「雷立ちあがる」は思い切った措辞。雷鳴と臭いが立ち上がってくるかのようです。
  • 雷や卜骨爆ぜる海蝕洞

    播磨陽子

    選者コメント

    夏井いつき

     「卜骨(ぼっこつ)」とは、占いに用いられた動物の骨。亀甲や獣骨などを鑽(きり)や鑿(のみ)で傷つけて灼き、その罅の形で吉凶を占います。ここに暮らしていた人々がいたに違いないと思われ「海蝕洞」。その頭上を雷が鳴り渡っていきます。
  • 清潔な怒りそれとも日雷

    林山千港

    選者コメント

    夏井いつき

     晴天の雷鳴である「日雷」は、雨の臭いを含んだ雷とはどこか違いますが、それを「清潔な怒り」と表現した点に強い独自性があります。中七「それとも」の一語によって、さりげなくバランスをとっている点も巧みです。
  • 日雷樹液にしづむ小さき翅

    綾竹あんどれ

    選者コメント

    夏井いつき

     「日雷」は、晴天に鳴る雷です。あ、雷だと見上げる頭上には青空。そして、眼前の「樹液」には「小さき翅」が沈んでいます。雷鳴の波動がかすかに樹液を揺するかのような感覚に、季語のリアリティがあります。

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