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中級者以上結果発表

2023年10月20日週の兼題

【曜日ごとに結果を公開中】

秀作

  • 大霜や死者を葬る火飯炊く火

    元野おぺら

    選者コメント

    夏井いつき

     「葬る」は「はぶる」とも読み、それ自体に「火葬する」という意味があるそうです。作者が意図して重ねた「火」は、生死を司るものでありつつ、季語「大霜」との対比を描きます。「大」の一字の効果にも抜き差しならぬものがあります。
  • 信仰の火に澄む霜の伽藍かな

    常幸龍BCAD

    選者コメント

    夏井いつき

     「信仰の火」とは蝋燭でしょうか、護摩木でしょうか。中七「~火に澄む」とは何? と思った瞬間に出現する「霜」の神々しくも冷たい光。その霜に覆われ尽くした「伽藍」の荘厳な光景。「かな」の切字も息をのむ美しさです。
  • 霜踏まれ吹かれ食はれて阿蘇を馬

    いさな歌鈴

    選者コメント

    夏井いつき

     「踏まれ」「吹かれ」「食はれ」と動詞をたたみ掛けた後の「阿蘇」という地名、「馬」という生き物。霜から馬の鼻づらのアップへのカメラワークも巧みです。助詞「を」の一字で阿蘇を駆け回る馬を見せるテクニックも流石です。
  • 霜燦燦けふも土神淋しいか

    RUSTY=HISOKA

    選者コメント

    夏井いつき

     「霜」は天文の季語。その霜が「燦燦」と降るのは、「土神」が淋しがっているからかもしれない、という発想そのものが詩です。「けふも」の「も」、「淋しいか」の「か」、助詞のニュアンスの効果も絶妙な作品です。
  • 薪どれも霜にふくれる今朝となる

    糸川ラッコ

    選者コメント

    夏井いつき

     軒に積み上げている冬籠のための「薪」なのでしょう。霜の降りた朝には、どの薪も水分を含んでいるのです。その様を「霜にふくれる」と描写したことも、「今朝となる」という措辞も、「霜」の朝の素直な実感が詩となりました。
  • 餓死に霜轢死に処分てふけもの

    ギル

    選者コメント

    夏井いつき

     「餓死」する生き物に「霜」が降り、「轢死」する生き物には「処分」という決定が下りる。この対比を描きつつ、「てふ」と冷静に突き放すような書き方をしたのも効果的。読後、「霜」の冷気がひたひたと押し寄せてきました。
  • 全体重で押す強霜の校門を

    平良嘉列乙

    選者コメント

    夏井いつき

     霜の校門や校舎を描いた句も多かったのですが、語順が巧く考えられています。「全体重で押す」という前半の措辞の肉体感覚、そこから「強霜」「校門」と映像を立ち上げます。「全」と「強」、各々一字の効果が際立つ作品です。
  • 強霜や五秒を燈す燐寸の火

    桃園ユキチ

    選者コメント

    夏井いつき

     「強霜や」と、先ずは強い冷気や真っ白な地面を想起させます。中七に移って「五秒」から「燈す燐寸の火」と映像化するテンポがいいですね。何のための燐寸の火か。ガス台の前、線香の火、読者の脳内には様々な場面が浮かんできます。
  • 仮置きの事故車へ三日目の霜来

    古瀬まさあき

    選者コメント

    夏井いつき

     事故をしたまま「仮置き」されて「三日目」の朝。作者は事故とは関係のない立場ながら、まだ今日も置かれている……と眺めているのでしょう。「~へ」という助詞、「三日目の霜来」という名詞止めの効果。吟味された言葉の選択です。
  • 牛舎の戸霜鳴らしつつ開け放つ

    北野きのこ

    選者コメント

    夏井いつき

     「霜」から「牛舎」の光景を発想した句も多々ありましたが、「霜鳴らしつつ」という措辞に、季語の現場ならではのリアリティがあります。「~しつつ」から「開け放つ」へ、霜の放つ冷気が生き生きと流れ込んでいきます。

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