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中級者以上結果発表

2024年4月20日週の兼題

薄暑

【曜日ごとに結果を公開中】

秀作

  • 哺乳瓶振れば薄暑の匂ひ立つ

    アロイジオ

    選者コメント

    夏井いつき

     湯を少量入れ粉ミルクを溶かし、最後に「哺乳瓶」を振ると、独特の匂いがします。粉の甘い匂い、吸い口のゴムの匂い、湯の熱の匂い。まるで「薄暑」が匂い立ってくるかのようだという感知に、生活の詩が生まれました。
  • 水張りの画紙の若々しや薄暑

    梵庸子

    選者コメント

    夏井いつき

     「水張り」とは、絵を描く前に、水分を含ませた紙を板やパネルに張る作業。ピーンと張られた「画紙」を「若々しや」と詠嘆する心を、季語「薄暑」と吊り合わせた点が見事なバランス。水の感覚も隠し味として、一句を引き立てます。
  • 梯子もて薄暑の書庫に張り付きぬ

    葉村直

    選者コメント

    夏井いつき

     天井までびっしりと本棚が設えられている「書庫」。専用の「梯子」を使って整理をしているのか、本を探しているのか。「薄暑の書庫」という表現と、「張り付きぬ」という描写が、この場の様子を過不足なく切り取りました。
  • 六艇が薄暑の水脈をぶつけあふ

    長谷機械児

    選者コメント

    夏井いつき

     「水脈」は「みお」と読み、航跡を意味します。「六艇」という数詞が、競艇場の水飛沫とエンジンの音を想起させます。「薄暑の水脈」という表現は、外でもないこの季節ならではの、という性格付け。「ぶつけあふ」の描写も的確です。
  • 嘴は薄暑の水へ真直ぐ入る

    秋野しら露

    選者コメント

    夏井いつき

     水辺にきた鳥をじっと観察しているのです。「薄暑」の明るいひかりに揺れる水面へ、「嘴」が真っ直ぐに入る。その瞬間、水の表情が変わることにハッと気づいたのではないか、と。眼球に映った映像をそのまま描写できる力に拍手を贈りましょう。
  • 一舟の行く手目に追ふ旅薄暑

    そうま純香

    選者コメント

    夏井いつき

     「薄暑」は三音の季語ですから、「旅」の二音を添えて、状況の情報を加えました。小さな舟の「行く手」を目で追っていくささやかな時間もまた、旅の豊かさ。旅ならではのゆったりとした心持ちも描かれて。
  • ピアノなき壁ほの白き薄暑かな

    多数野麻仁男

    選者コメント

    夏井いつき

     長年壁際に置かれていた「ピアノ」を、最近になって手放したのでしょう。日光に晒されていない部分だけがほの白く残っている壁。そこには無いものへの思いを、季語「薄暑」の光が浮かび上がらせる一句です。
  • 屋上は薄暑、鬱王が近い

    嶋村らぴ

    選者コメント

    夏井いつき

     階段を上がり屋上へのドアを開くと、少し汗ばんだ体に心地よい「薄暑」の風。清々しいひかりが降り注ぐ屋上。鬱に囚われそうな感覚を「鬱王が近い」と表現したのは、「大雷雨鬱王と会うあさの夢 赤尾兜子」の本歌取り。「薄暑」と共に「鬱王」を迎え撃ちます。
  • 旅薄暑かめばさびしき海ぶだう

    にゃん

    選者コメント

    夏井いつき

     同じく「旅」の句ですが、下五「海ぶだう」によって、沖縄あたりの旅ではないかと想像できます。プチプチとした食感を、「かめばさみしき」と感じとる傷心の旅でしょうか。「薄暑」の明るさが慰めのようでもあって。
  • 豆花をすくふ薄暑のアルミスプン

    平本魚水

    選者コメント

    夏井いつき

     「豆花(トーファー)」は、豆乳を固めて作ったスイーツ。台湾では古くから親しまれているようです。季語「薄暑」の明るさや心躍る気分を、バランスよく表現。「すくふ」の感触と「アルミスプン」というモノが、巧く取り合わせられた一句です。

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